アソビのタネ

子どもがいるならどこでも「もっと楽しく」「もっとのびのびと」「もっと安心して」いられる現場づくりでの実践を記していきます。

自分という主体を立てる(研修1日目)

 

中央大学の学生ボランティア プレーワーク研修

日時:2016年7月2日~3日 14:00~17:00

場所:上沢三区自治会館 (宮城県気仙沼市岩月寺沢)

 

宮城県気仙沼市で子どもの学習支援ボランティアを続けてきた中央大学の学生達。今まで何度か研修を依頼されてきましたが、今回は新一年生をむかえて、「そもそも子どもの育ちにとって遊びってどんなもの?」「どう子どもに関わっていけばいいのか」という部分を学びたいと研修の依頼がありました。1日目は当団体の廣川が、2日目は遠藤が研修を担当しました。

 

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【テーマ1 なが~い自己紹介】

1日目、10人で行われた研修会は、長い自己紹介から始まりました。「名前、出身地、兄弟構成、ペットを飼ったことがあるか」という項目に加え、一人一つずつ質問したい項目を挙げていき、全員がそれに答えて自己紹介しました。

 

「好きな色、誕生月、苦手な食べ物、好きな食べ物、自分にとっての夢の国、海外に行くならどこ、好きなスポーツ…」15項目ある自己紹介は、普段知っている相手でも意外な一面が表れます。「みんなそれぞれの違いがある」それは研修を通して伝えたいメッセージのひとつでした。

 

【テーマ2 子どもと遊び】

次に子どもを取り巻く遊びの環境とそれに対する私たちのアプローチを、写真を映しながら解説しました。

 

最初に画面に映ったのは、映画「ALWAYS三丁目の夕日」の一場面、1958年の東京下町の様子。土管のある空き地で子どもが大勢遊んでいます。経済的に厳しくも、自由に子どもが遊んでいた時代です。それに比べて、現在はどうでしょうか。現代では子どもが少子化していると言われますが、子どもから見れば「大人の多大化」です。大人が多いということは、一人の子どもに対して向けられる教育・しつけなどの大人の目が増え、子どもの環境が窮屈になってきたということです。

 

子どもの遊び場でよく見かけるやりとりにこんなことがあります。孫と一緒に遊び場に来たおばあちゃんは工作台を見て「この子にできるのはイス作りね」と考え「イス作ってみたら?」と孫に言います。孫はほかにやってみたい遊びがありましたが、「おばあちゃんがそう言っているし、しょうがないから作ろう」と思い、イスを作ります。

 

このように子どもが大人に付き合って遊ぶ場面はよくあるのです。子どもが「やりたい」と思う好奇心や挑戦から始って遊ぶことが、本来子どもの育ちにとって必要なことなのです。イスが完成して満足するのはおばあちゃんです。しかし子どもが作りたいと思って作り始めていたら、イスが完成しなくとも子どもは満足していたはずです。

 

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プレーワーカーも子どもを遊びに誘うことはしますが、子どもの「やりたい」気持ちが湧き上がっているのか、大人に付き合って遊んでいるのかは見極める感度が必要です。子どもは遊びを通して生きています。湧き上がる好奇心・挑戦心を遊びの中で表現して自ら育っていきます。プレーワーカーの仕事のひとつに、その心が湧きあがるような遊びの仕掛けをしていくことがあります。

 

遊びの仕掛けといっても、子どもを遊びに誘ってコントロールするわけではありません。何で遊ぶかの選択の主体は子どもにゆだね、人を変えるのではなく環境を変えます。子どもが遊べる環境を整え、遊びを選択できる素材をそろえます。しかし世の中ダメなことだらけです。焚き火はもちろん、穴を掘って遊ぶのも、水を大量に使って遊ぶことも、場所によってはダメです。

 

では何が原因でそれがダメなのか?

 そこを探り、折り合いをつけていくことが子どもの遊ぶ環境を整えるために私たちがやっている仕事なのです。

 

【テーマ3 自ら遊ぶ】

「この次に画面に2枚の写真がうつし出されます。自分の選択する方に移動してください」と指示があり、うつし出されたのは都会の写真と田舎の写真。

「どちらに住みたいですか?」という質問が一緒に表示され、参加者はほとんど半々に分かれました。そしてその意見を交換しました。

 

田舎:自然が豊かで、季節感がある。時間の流れがゆっくり。ぼーっとできて自分を考えられる、都会は息苦しい。

都会:欲しいものが手に入りやすく、交通の便がいい。地元のしがらみもなく、コミュニケーションとらなくてもいい。

 

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「では質問を変えます。子ども時代だったらどちらで過ごしたいですか」

今度は田舎に8割が集まる結果となり、再び意見を交換しました。

 

田舎:自然の中で過ごしたい。お金をかけずに、山に落ちているもので遊べそう。など

都会:都会でも豊かな自然があるところもある。また、スクールカウンセラーなどの支援が多い。など

 

それぞれのバックグラウンドはまったく違い、場所に対する意見も様々。それに正解や不正解などはなく、個々人がまったく違う考え方を持つことを共有しました。

 

最後に、実在のプレーワーカーのエピソードを伝えました。プレーワーカーにはいろんなタイプの人がいます。時に子どもを巻きこんで遊び、時に身を引いて子どもの遊びを見守ることのできる人もいれば、おっとりとして子どもとのベーゴマ勝負は全敗するけれど、親たちの言葉によく耳を傾けるような人も。

 

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ある時、廣川は不思議なプレーワーカーに出会いました。その人は子どもの遊び場でずっと木の高い所に登り、子どもとも遊ばず、大人とも話さず、じっと遊び場を見ていました。

仕事として子どもの遊び場にいるのに、何をしているんだろう?そう思っていると、何もしていないということに気づきました。

遊び場では「なにもしていないこと」も遊びになります。それを身体で表現しながら、遊び場全体を見ていたようです。そういうやり方もあるのか、と衝撃受けたというエピソードでした。

 

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廣川は最後に「自ら遊び、自分という主体を立ててほしい」と伝えました。子どもが遊ぶ環境をつくるためには、自分が何をしたら楽しいだろうと思う視点が大切です。子どもの遊ぶ環境を整えるためのやり方は、いろんなタイプのプレーワーカーがいるように、人それぞれ違っていいのです。長い自己紹介から、田舎と都会の議論まで、それぞれに違いがあることを伝えつづけました。

 

1年生を迎えての今回の研修では、「いろんなタイプの人間がいて、そのままでいい」というメッセージを込めて研修を行いました。子どもに関わる前に、まずは自分を主役としてどう人生を歩むのか、その芯を立てることはボランティア活動だけでなく、学生たちが社会に出た後も必要になることではないでしょうか。